どれだけ上手に運動を学習できるかは、大部分が何に注意を向けるかで決まってきます。
ボクは毎日、病気やケガで動けなくなくなった患者さんが、歩けるように、走れるように、自分の好きなことができるようになるためのお手伝いをする、理学療法士として病院で働いています。
理学療法士は国家資格、つまり、国が認めた運動を教えるプロです。
スポーツにはそれぞれ特徴があり、全てのスポーツを教えることは出来ませんが、運動を効率的に覚えるためのコツは共通しています。
この記事では、そのコツを誰でも使える知識としてお伝えします!!
目標達成した後の生活を想像して「報酬系」を刺激
例えば、バスケができるようになりたい場合…
- レイアップシュートを決められる。(できた)
- ゴール下で待つ自分に仲間からパスが送られ、レイアップシュートを決められる。(よかった)
- チームメイトから褒められ、感謝され、頼られる。(ありがとう)
- ゴールを決められるから自信をもってバスケに参加できる。(任せろ)
- 運動の習慣化で健康になるだけでなく、集中力や記憶力も向上して勉強もはかどる。(充実してるな)
- 勉強ができて運動でも活躍したら、異性にモテないわけがない。(ドキドキ…)
脳にはドーパミンという快楽を感じる物質が存在しています。
褒められたり目標を達成した時に、嬉しいとか気持ちいいとか、充実した感じがするのもドーパミンの影響です。
そのドーパミンをコントロールする「報酬系」という回路があり、これがやる気や学習効果に影響しています。
報酬系は、様々な条件で活性化して気分を高揚させます。先ほどの人に褒められる、目標を達成する以外にも、おいしいものを食べる、お金をもらう、感動するなども報酬系を刺激します。
更に、夢や理想を思い描いた時など、実際に手にしていなくても、それを思い描くだけで報酬系を働かせることができます。これをビジョン報酬といいます。
初めての運動に挑戦するときには、このビジョン報酬を利用します。
つまり、
自分がどうなりたいかを想像する。
できるだけ具体的に想像できた方が効果的なので、その目標を達成した時に自分がどう感じるか、周りの人にどう思われるか、目標を達成したことで生活がどう変わるか、そこまで考えます。
これで火種ていどだったやる気が一気にキャンプファイヤーレベルまで燃えあがるはずです。
やる気がメラメラとなっているうちに、次のステップに入ります。
「こうやったらできるだろう」をイメージ
例えば、バスケができるようになりたい場合…
- なにかしらボールを投げた時の感覚を思い浮かべる。
- バスケットボールを持ったことがあれば、その重さや触り心地を思い浮かべる。
- 実際にやったことがある人は、自分がやっているときのことを思い浮かべる。
新しく運動を覚える(運動学習)過程は、「こうやったらできるだろう(予測)」と「こうだった(結果)」が「どのくらい違ったのか(誤差)」を修正する繰り返しす。
この誤差修正の結果つくられた精度の高い「こうやったらできるだろう(予測)」を「内部モデル」と言います。
この内部モデルが運動イメージそのものであり、運動学習とは、この内部モデルを育てていく過程や結果ということになります。
初めてのことに挑戦する場合は、「こうやったらできるだろう(予測)」を明確にするために、これから挑戦することと少しでも関連するような、今すでにやったことがあることを参考に、「こんな感じかな」と動きをイメージしてみてください。
このイメージは、動いている自分を外から眺めて絵として思い浮かべるよりも、自分自身が身体を動かしている体験としてイメージする方が良いです。
またイメージか…と思われるかもしれませんが、この過程が本当に大切なので、手を抜いてはいけませんよ。
イメージは実現する
ためしに、ボールを投げるところをイメージしてみてください。
できましたか?
では、ボールを砲丸に変えてみましょう。
…いま、「重い!!」って思いました?さっきより肩に力が入りました?
もし、投げたときの感覚をはっきりとイメージできていれば、投げた方の肩が少し張ってくることもあります。
実際に砲丸を持ったわけじゃないのに、不思議じゃないですか?
これが、イメージの効果です。
イメージしただけで体はそのイメージを体現するための準備を始めます。
これを練習開始前に繰り返していると、「こうやったら成功する」だけでなく、「これだと失敗する」といった、成功と失敗の両方のイメージができるようになります。
ここまでくると、成功するための注意点が明確になるので、成功率がぐっと高くなります。
これが正しいイメージトレーニング(イメトレ)です。
ちなみに、自分が逆立ちをするところをイメージできますか?
実際に逆立ちが出来ない人は、どこに力が入るのか、どんな風にバランスをとったらいいか、それをイメージできないから、いくらイメトレを繰り返しても出来るようにはなりませんよ。
「動き」よりも「道具」に注意を向ける
例えば、バスケができるようになりたい場合…
- ボールの重さ、はずみ方、動き方など、ボール自体に注意を向ける。
- ゴールまでの距離、角度、リングの見え方に注意を向ける。
これらが自分以外の「環境」に注意を向けた状態です。
これを、エクスターナルフォーカスと言います。
周囲の環境に注意を向ける場合、ゴールやボールの軌道など自分から離れた先に注意を向けるのと、ボールの手触りやはずみ方など道具操作に注意を向ける場合の2パターンが考えられます。
ゴルフ初心者がパターを打つ時にどこに注意を向けるかを細かくわけて研究した文献では、ボールの軌道やゴールなどの目標物に注意を向けるよりも、ゴルフクラブの動きに注意を向けた方が、ショットの正確性が明らかに優れていました。
これはつまり、自身が直接コントロールできないものに注意を向けるよりも、自身がコントロールできることに注意を向けた方が効果的ということです。
バスケの場合は、「ボールの手触り」や「靴底の感じ」などがそれに当たるので、「ボールがどんな軌道だったか」よりも、投げた瞬間の「手触り」など「生の感覚」に注意を向けてください。
熟練者になると注意の対象が「道具」から「ゴール」へと自身から離れていく、という説もありますので、自身の熟練度に合わせて注意の向け方を工夫してみてください。
※道具を使わない体操や水泳などの場合、「空気」や「水」がどのように動くかや、「○○のように動かす」など、運動自体に注意を向けることなく、運動の結果をイメージできる表現を使うことが勧められています。
※プロ野球巨人軍の長嶋監督って、「形や理屈」よりも「感覚」を優先して教えていた、科学的には非常にわかりやすい優秀な指導者だったといえます。
反対に「自分の動き」に注意を向けた状態は…
- 腕のどこに力を入れているか…
- 手がどの位置にあるか…
- ボールを投げるときの角度はどうか…
このように、「自分がどう動くか」に注意が向いている状態をインターナルフォーカスといい、この状態ではパフォーマンスが落ちるといわれています。
その理由は、人間はまったく同じ運動を繰り返すことが不可能だからです。
例えば、「肘を90°に曲げてください」と言われて、きっちり90°にできるかというと、相当な訓練をつんだ人でなければ無理です。
「椅子から立つ」という動作でも、繰り返していると、身体を傾ける角度や、右足と左足の体重を乗せるバランスや、手を膝につくかつかないかなど、たくさんのバリエーションがあることに気付きます。
そのうちどれが「正解」というものではありません。立てずに転んでしまったら失敗ですが、それ以外のどの方法でも、「立つ」ことができていれば全て正解なのです。
つまり、正解は1つじゃないんです。
こういった考え方を、一般化された運動プログラム(generalized motor program;GMP)といいます。
位置を変えて練習を繰り返す
例えば、バスケができるようになりたい場合…
試合などの実践場面では、練習とまったく同じような場面でボールをもらうことの方が少ないでしょう。その場合、今まで経験したことがない、初めてのシュートを打たなければならないのですが…いったいどうしたらいいのでしょうか。
結論としては、
同じ練習を様々なバリエーションで練習することです。
これは、先ほどのGMPと合わせて体系的に構築した、スキーマ理論で説明できます。
フリースローのように一定の位置・距離からのシュート練習を繰り返すことを、恒常練習といいます。これは、1つの正解が決まっている場合に有効な方法であり、フォームを固めるのには有効な練習方法と言われています。
しかし、練習を繰り返すと徐々に正確性が高まりますが、人間はロボットと違いまったく同じ運動を繰り返すことができませんので、どんなに練習しても誤差が0になることはありません。
すると、わずかな誤差修正を繰り返すことになり、かえって正解がわからなくなり、失敗が増えてしまいます。
逆に、複数の位置・距離からのシュート練習をランダムに繰り返す練習方法を、多様性練習といいます。これは、どのくらいの力でボールを投げればどのくらい飛ぶか、などの力と飛距離の関係性を身につける練習です。
この方法により、練習では経験していなかった位置からのシュートでも、どのくらいの力で投げればいいのか予想することができ、成功率を高めることができます。
試合で使える技術を身につけるためには、フォームを完璧にすることよりも、どこからでもゴールを決められる技術を身につけましょう。
本番を想定した「環境」で練習する
更に、練習した時の周囲の環境、条件をまったく同じようにそろえることが不可能だからです。
だた歩くだけでも…
- 雪の上をコンクリートの上と同じように歩いたら転んでしまいます。
- 混雑する道を1人で歩くときと同じように歩いたらぶつかってしまいます。
- 水が入ったコップを持っているのに普段通りに歩いたらこぼしてしまいます。
このように、人は常に、周囲の環境にあわせて柔軟に動きを調整しています。
これを、アフォーダンス理論やダイナミックシステムズ理論といいます。
先ほどのバスケの例に戻って実際の場面を想像すると、
- シュートをうつ位置(ゴールに対する距離・角度)
- シュートの重要性(外すか決めるかで勝敗が決まる)
- 観客の有無(好きな人が見ている)
- 自分の体調や気分(筋肉痛、寝不足、緊張)
これらはすべて結果に影響をあたえる要素ですが、この条件を毎回そろえるのは不可能ですし、自分でコントロールできません。
だから、自分自身に注意を向けて練習するよりも、普遍的な「ボール」や「ゴールの位置」に注意を向けて練習する方が、パフォーマンスを上げることができます。
また、試合で活躍することを想定すると、先ほどの様々な場面を意識して作り出して練習することも必要になってきます。
例えば…
- シュートをうつ位置→次に詳しく説明します
- シュートの重要性→外したら罰ゲーム
- 観客の有無→練習から応援に来てもらう
- 自分の体調や気分→どんな時でも練習する
このように練習を工夫することで、本番でのパフォーマンスを保つことができます。
「自由に」練習しよう
あなたが指導者だったら知っていないといけない重要な事実をお伝えします。
それは、
「やり方」を教えれば教えるほど、「自由に」練習した場合よりもパフォーマンスが落ちる
という事実です。
これは複数の研究者によって証明された、事実です。
熱心な指導者には信じられない事実でしょうから、研究のほんの一例を紹介します。
スキーシュミレーターを使用した研究。2つのうち1つのグループにだけ正しいテクニックを教え、もう1つのグループは自由に練習した。3日間の練習後、自由に練習した群の方が反復回数などあらゆる項目で明らかに上達していた。更に、プレッシャーのかかるテスト場面では、差が拡大し、自由に練習した群のパフォーマンスの方が良かった。
Research Qyarterly for Exercise and sport, 68, p362-367
指示を多く与えすぎると、学習者は意識的に情報を制御するようになり、どのようにスキルを行っているかを考えることに没頭してしまい、それがパフォーマンスの低下につながる。
その後に自動化を獲得しても、とくに競技会などストレスが多い場面では再び意識的制御を使用する傾向があり、その結果として自動的な運動が阻害され、パフォーマンスに悪影響を及ぼす。
そのほかにも、Singer (1985,1988), Richard Masters (1992), Maxwell et al (2000)など、多くの文献で同様の結論を出しています。
練習では活躍できるのに、本番に弱い選手。
それは、メンタルの問題ではなく、練習の仕方に問題があるのです。
はっきり言うと、「正しさ」を教える指導者によって作られたものである、とも言えるのです。
ショッキングな事実でしたが、かといって、指導者が必要ない、なんてことはありません。
最終的な能力としては、指導者がいた方が高くなるとも言われていますので、正しい指導方法を知っている指導者が必要です。
指導者の役割を3つにまとめると、
- どこに注意を向けるかを示す
- 正解からどのくらい離れているのかをフィードバックする
- 試行錯誤する時間を与える
指導者だからといって、すべて教えることはできません。
試行錯誤するなかで得られるものほど、大切なものだったりします。
正しい指導法を身につけ、本番に強い選手を育成してください。
選手自身にとって、指導者がいない時間の練習も大切です。
つまり、自主トレです。
練習なくして活躍なし。
本日ご紹介した運動学習理論をもとにした練習方法をもとに、効率的に運動をマスターして、充実した生活を送って下さい!!
効率的に勉強するには…
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